市長コラム(令和8年度)
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令和8年6月

5月の大型連休中、NHK朝の連続テレビ小説「風、薫る」を見ていました。主人公一ノ瀬りんは、不幸が重なりシングルマザーとなりますが、孤児院で育った大家直美とともに看護師を目指します。看護学校でバーンズ先生の「ディス イズ ノット ナーシング」という厳しい言葉が教室に響き渡ります。ナイチンゲール精神に反するというのです。きっと、りんと直美は今後終生「看護」というものと向き合い、それを突き詰めていくことになると推察します。
「看護」と言えば医療の重要な部分ですが、日本の医療を考えたとき、高齢化と少子化の問題は避けて通れません。日本の高齢化率(65歳以上の人口が全人口に占める割合)は、令和6年10月1日現在29.1%(内閣府)です。また、本市の直近の本年4月1日現在の高齢化率は28.5%程度です。一方、令和6年の出生数は68万6千人強で、団塊の世代(昭和22年から24年生まれの方)の3分の1にも足りません。今後の社会保障全般の担い手不足は非常に大きな課題です。
しかし、現在の医療費の増加の背景にあるのは明らかに高齢の方です。日本の総医療費に占める高齢者医療費の割合は6割を超えていて、医療という産業は高齢者産業という側面が強くなってきています。概観すると、総人口の3割弱の人が6割の医療費を使っている状況だということです。
そんな中、病院の経営が全国各地で危機を迎えています。全病院の約7割が赤字であるといわれており、特に公立病院はもっと高い確率で赤字に陥っています。例えば、県内17(指定管理者制度を導入しているあま市民病院を除く。)の市立病院事業の令和6年度決算では全ての病院が赤字経営を強いられています。公立の病院が赤字に陥りやすい理由として公共性の担保があります。地方によって事情はさまざまですが、一般的には、救急医療、小児医療、周産期医療、精神医療など、民間病院では採算が合わず、提供が難しい医療を担うことを公共性と言いますが、稲沢市民病院においては、このうち周産期医療と精神医療以外は提供しています。
また、市立病院の経営を悪化させている要因の一つに人件費の問題があります。病院職員も公務員として働いていますので、人事委員会を持たない本市においては、国家公務員の人事院勧告に準拠してその給与が決められています。このところの毎年のアップと会計年度任用職員への期末手当・勤勉手当の支給は経営に大きな影響を与えています。赤字が拡大し、市一般会計からの繰入れがあまり過大となると、他の行政サービスにも影響を与えます。市民病院は、市民の命と健康を守る砦ですので、どんな形にせよ守り抜く覚悟ですが、まずは「稲沢市民病院のあり方検討委員会」の議論を見守りたいと思います。
令和8年5月
経済安全保障とよく言われますが、今や「産業のコメ」ともいわれる半導体こそ最も重要な戦略物資でしょう。普通世の中にある物質は、金などの電気をよく通す「導体」とゴムのように電気をほとんど通さない「絶縁体」の二つに分けられますが、条件によって電気を通したり通さなかったりする「半導体」というものもあります。電気の流れを「ON」にしたり「OFF」にしたり精密にコントロールできるため、機械に複雑な指令を出すことができます。これにより情報の計算、記憶、電機の変換などが可能になります。今やスマートフォン、パソコン、電気自動車、また生成AIなど私たちの身の回りの電子機器にはほとんどすべて使われており「産業のコメ」と呼ばれる所以となっています。
1980年代までは日本の半導体産業は世界シェア50%を超え、我が世の春を謳歌していました。しかし、日本を脅威に感じた米国などからのバッシングを受け、1986年に「日米半導体協定」が締結されたことによって外国製シェアを強制的に拡大させられたり、ダンピング防止などを理由に、世界市場において価格競争力を失ったことや、設計から製造までを自社で行う「垂直統合」にこだわるあまり、設計専業の「ファブレス」と製造受託専業の「ファウンドリ(TSMCなど)」に分かれる水平分業モデルの流れに乗り遅れるなどして、急速にそのシェアを失っていきました。
今、政府を中心にチップそのもののシェアが1割にまで低下した国内半導体産業をもう一度世界のトップレベルにまで押し上げようとする試みが、猛烈な勢いで進んでいます。日本の強みは、シリコンウエハーやフォトレジストなどの半導体材料(世界シェア48%)と、東京エレクトロンやアドバンテストなどの製造装置(世界シェア31%)、画像センサー(ソニーが約50%のシェア)などの特定デバイスなどにあります。その強みを生かし
(1)TSMC(熊本)の第1工場に続き、第2工場建設を本格化させ、国内初の「3ナノ(㎚)プロセス」の先端半導体生産に向けた準備を加速させる。
(2)Rapidus(北海道)において2ナノ以下の最先端ロジック半導体の施策ライン稼働を目指し、IBMやベルギーのimecとの連携を通じ、技術確立と国から8000億円規模の集中支援を行う。
などを行っています。
半導体受託生産シェア約70%のTSMCが立地する台湾海峡情勢が緊迫化する中で、産業のコメの国内生産は最も重要な経済安全保障政策といえるでしょう。
(参考:本コラムにおける数値データの出典について)
※本コラム内の各数値データは、経済産業省「半導体・デジタル産業戦略」および公開されている各種市場調査データ等に基づき記載しています。
令和8年4月
中東情勢が緊迫化する中で、新年度令和8年の4月を迎えました。
新しい年度の一般会計総額は580億円、過去二番目の大きい予算となっています。子育て・教育、福祉・保健、防災・減災、DX、まちの魅力などに注力したものとなっています。詳しくは今後の広報、公式ホームページ等でご覧ください。
年度の初めにあたって、時と出会いに思いを巡らせましょう。
先月は母の死という出来事があり、経典を聞いたり読んだりすることが多くなりました。
仏教の時の概念に目を見張りました。「正信偈(しょうしんげ)」の中にある「五劫思惟之摂受(ごこうしゆいししょうじゅ)」という文の五劫ですが、五劫は時を表し、四十里(約160km)の立方の岩を3年に一度ずつ(諸説あり)天女が降りてきて、その羽衣で拭って、すり減り無くなるまでの時間(盤石劫)を一劫と言いその5倍、とてつもなく長い年月のことをいいます。
一方で、刹那主義とかに使う「刹那」という言葉は日常でもよく使われますが、これも仏教用語です。刹那とは指を一回弾く間に60から65刹那あると言われ、人間の認識を超える極めて短い時間のことを言います。すべてのものは、生じた瞬間に滅び、次の瞬間には別のものが生じる(刹那滅)という考え方があります。
仏教の壮大な時間の観念について述べました。私たちは刹那と五劫の間で生活し、一生を暮らすのです。
新しい職場や学校で未知の人と出会う、これもまた数学的には奇跡です。限りある人の一生で出会う人の数は限られています。出会えた人に感謝し、ともに働き、ともに喜び、ともに泣き、ともに学びましょう。
これがまさに一期一会で、一生の間に二度とないことだと思わなければなりません。新年度、仏教的な考え方で、出会いの奇跡に前向きな気持ちで生きましょう。

