稲沢のむかしばなし 土っこが降ってきた(祖父江町新町)
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お風呂のない家が多かったころは、お風呂のある家へ貰い湯をしたり、お金を出して銭湯へ行ったものです。
銭湯は、一日働いた疲れを流して身も心もさっぱりする所であり、仲間に会って話もできる楽しい場所でもありました。そんな銭湯が、祖父江の新町にあったころのお話です。
今日も一生懸命に働いた弥八さんは、近くの彦市さんや小助さんたち銭湯仲間を誘って銭湯へ出かけました。いつものように気持ちよく入浴し、楽しく話しながら帰りました。その途中でのことです。何かがパラパラと降ってきたのです。みんなはビックリして「キャア」「ワア」と声を出しました。せっかくきれいに洗ってきた頭やそれに着物までが汚れてしまいました。よく見ると降ってきたのは土っこ(細かい土)でした。誰がこんないたずらをしたのかと見わたすも、近くには大きな木の枝が伸びているだけです。また、月に雲がかかっていて暗くて分かりません。次の日も同じ事が起こりました。仲間の甚平さんや又吉さんたちも土っこをかけられたのでした。そして、土っこの降るのが評判になってきました。
被害にあった弥八さんや彦市さん、小助さんなど若い衆は、犯人を突き止める相談をしました。
銭湯役は二人一組を二つ作り少し間をおいていつものように帰ることにし、他の衆は見張り役としました。
みんなは夕方を待ちました。最初の二人が、銭湯から顔を手ぬぐいで拭きながら出てきました。そして、大きな声で話をしながら帰って行きます。あの大きな枝の下にさしかかりました。すると、今夜も土っこが降ってきました。二人は「キャー、ワァ!」と大げさに叫んで走り出しました。見張り役は、注意深く身体を動かさないようにして見たのですが、犯人はわかりません。そのうちの次の二人がやって来ました。そして同じ場所を通ると、どうでしょう、また同じように土っこが降ってきたのです。この二人も声を挙げて逃げ出しました。ちょうどその時、雲間からお月様が顔を出して、あたりが明るくなったのです。
枝の葉陰に黒い丸い物があるのを源蔵さんが見つけ「おい、枝の上に黒い丸い物が乗っとるぞ!」と叫びました。見張り役のみんなが枝の下あたりに集まってきました。「本当だ、何かのっとるぞ」「何じゃあ、あれは」と言いながら、よくよく見ると、狸がうずくまってじっとしているではありませんか。吾作さんが近くから長い棒を探してきて、狸を突っつきました。狸は枝の上を逃げ廻ります。
その度に土っこがバラバラ降ってきます。枝の先の方へ追いつめられた狸は、大きくジャンプして地面に飛び降り、みんながビックリしているうちに、素早く逃げ去ってしまいました。
狸は、夕方になると体を土にこすりつけ土っこをいっぱいにつけて木に登り、人が通ると枝の上で体をゆすって土っこを降らせ、人が騒ぐのを面白がっていたのでした。
狸も、みんなに騒がれ、棒で突かれて、もう懲りたのでしょう、土っこは降らなくなりました。
そしてまた、いつものように弥八さんたち銭湯仲間の楽しい話声が聞こえてくるのでした。