稲沢のむかしばなし 坂田のキツネ沢(稲沢市坂田町)
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坂田町に伝わる「坂田のキツネ沢」というお話です。
坂田村に住む茂吉は、いつものように葦などがおいしげる、沼地のそばの一本道を通って、田んぼに向かっていた。しかし、今日はとくに朝もやが深く、一面がぼんやりと、かすんでいた。沼の中ほどまできたとき、突然目の前に、大男が現れた。
「おーい、茂吉っあん、お前さんは、村一番の力持ちだそうだなあ」
「そんなことはねえだ」
「いや、みんながそう言っているだ。このうわさを聞いて、お前さんを待ってただ。どうだ、おらと力だめしをせんか」
「何を言ってるだ。わしはこれから仕事だ。道をあけてくれ」
「ならねえ」
茂吉が何度言っても、大男は道をあけそうになかった。茂吉はあきらめた。
「しかたがねえ、どうやってやるだ」すると大男は言った。
「うでくらべだ」
「うでくらべ?バカな子どもじゃ、あるめえに」
茂吉は反対したものの、大男は”ガン”として、道をあけようとはしなんだ。しかたなく、うでくらべをやることにした。「よし、さあこい」茂吉は大男と、がっぷりとうでを組み合わせた。
ふたりは、力の限りつくした。顔は真赤になり、ひたいや手からは、汗がにじみ出た。
「さあ、最後のとどめだ」茂吉は、全身の力をこめ、大男をとうとうねじふせた。
「さすが、たいした力もちじゃ」といって、大男がさっと立ち上がろうとしたとき、おしりのあたりに、しっぽのようなものが、ちらっと見えた。茂吉は、いっしゅん目をこすった。すると、一匹のキツネが一目散にかけていき、すっと朝もやの葦の中へと、消えていった。
「あっ、キネツめ、ばかしおって」こんな話がいつしか村中に伝わり、この坂田村の東はずれ一帯を「キツネ沢」というように、なったということです。