稲沢のむかしばなし そろばん名人(稲沢市高御堂町)
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稲沢市のまん中くらいにある高御堂町の「そろばんの名人」というお話です。
昔、高御堂町に大津先生というそろばんの名人がおった。この先生は、自分の家で塾を開き、弟子たちにそろばんを教えておった。
塾の前は、美濃路という街道で一日中カラカラという荷車の音や馬のいななきや人々の話し声でにぎやかだった。
弟子たちは、今日もパチパチと一生けん命練習をしておった。
「先生、おもての音がやかましくて先生のおっしゃることが、よくわからんのじゃが。」
「おらも、大切なことがよく頭に入らんのじゃ。」
弟子たちが、口々に言うので先生は「よォーし。わかった。それじゃあ心をしずめて、わしのそろばんの音をよく聞くがよいぞ。」
先生は、パチパチとそろばんをはじきはじめた。すると、どうしたことか。街道の物音は、パタッとやみ、先生の声だけが聞えて、練習にぼっとうすることができるようになった。
ある日のこと。この話を聞いた稲葉宿の木綿屋の主人があわててやってきた。
「せんせぇ。おねがいがありますだぁ。店の倉のカギが二・三日前からどこかへいってしまったんです。何か、ええ方法はございませぬかのう。」
先生は、さっそく主人を従えて倉へきた。そして、おもむろにそろばんを取り出し、パチパチとはじき始めた。すると、ふしぎなことに、カギはカチンと音をたててあいてしまった。
その後、このわざは「そろばん攻め」といわれ、町中の評判になった。しかし、先生は、このわざを誰にも教えなかったそうじゃ。