稲沢のむかしばなし ゾウはターケを食う(稲沢市稲沢町)
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きみは、ゾウを見たことがありますか。動物園に、キリンやカバ、サルなどといっしょにいるゾウを──。
大きな体、長いはなをしているゾウは、ほし草やくだもの、やさいなどを食べます。これは、このやさしいゾウが、人間、それもターケ(タワケ)な人を食べてしまうとしんじられていたころのお話です。
むかし、むかしのお話です。
いまから百年いじょうも前のこと。まだ、さむらいが天下をとっていたころです。
ある日、稲沢を通りぬけている美濃街道を、はじめてゾウが通ることになりました。しかし、庄屋さんをはじめ、村のものは、ゾウという生き物をだれも知りませんでした。
庄屋さんがいうには、「ゾウというのは、大きなネコのことにちがいねぇ。バケネコだで、マタタビをぎょうさんよういしらどうだべ」
「いいや、庄屋さん。ゾウというのは、お坊さんのことだと思うぺ。きっと、あちらの国のえらいお坊さんじゃあ」
「そうじゃ。村のはずれのはたご(りょかん・ホテルのこと)に、みるからにりっぱな、おさむらいさんがとまってみえるわなも。ひとつ、おさむらいさんに、そうだんしてみたらどうじゃ」
ということで、さっそく、おさむらいさんにそうだんに行きました。
「おさむらいさま、わたしら村のものは、まだ、ゾウという生き物を見たことがございません。いったい、ゾウというのは、何ものでしょう・・・」
おさむらいは、おさけを飲みながら赤い顔でこう答えました。
「自分は、長崎で勉強を終え、江戸(今の東京)に帰るところでござる。ゾウというのは、人の10ばいぐらいの体で、なんでも、ターケを食うという話でござる。」
「ほほう。ゾウは、ターケを食うのですか。どうもありがとうございました」
村のものは、やどを出ると、口々に言いました。
「ゾウは、ターケを食うそうじゃ。わしらひゃくしょうは、勉強よりも、米を作ることばかりじゃった。わしらは、ゾウに食われてしまうかもしれん。」
「そうじゃ、そうじゃ」
「どうしたらええじゃろう」
しばらく行くと、となり村からそうしきを終えて帰ってきた、お寺のおしょうさんにあいました。村人たちは、おしょうさんにさきほどの話をしました。村一番のちえものといわれるおしょうさん、いまさらゾウなど見たことがないと言えません。
「そ、そのとおりじゃ。わしも一ぺんだけゾウがターケを食ったところを見たことがある。わしはかしこいでよいが、村のものはみんな、外へ出ないほうがええぞぇ」と、言いのこすと、いちもんさんにお寺へ帰っていったそうです。
さて、ゾウが稲沢にやってきました。しかし、村のおとなたちは、みな家の中にとじこもり、ゾウが通りすぎるのをまっていました。何も知らない子どもたちは、ゾウの体にふれたり、ゾウのきょくげいをみたりして、たのしかったそうです。さいごには、こんぺいとうというあまいおかしをもらい、みんな家に帰り、おとうさんやおかあさんに、その話をしたそうです。
ああ、おしょうさんは、その日、おし入れに一日中かくれていたそうですよ。