稲沢のむかしばなし ゼロ戦(稲沢市増田町)
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いまから36年前、太平洋戦争のころ。世界は、あちこちでドンパチ・ドンパチと、ころし合いをつづけていた。アメリカは、日本へせめこみ、ゲンシバクダンを二つおとした。こうして、戦争のおわる少し前のとき、稲沢の東南のはずれにあった、ヒコウ場のお話です。
ヒコウ場には、憲兵さんがいて、だれも入れませんでした。でも、こわい憲兵さんも、日曜日は休みでした。
それを知った増田村の太郎少年たちは、草にかくれ、はらばいになって、ヒコウ場を見に行きました。
「おい、ヒコウキって、どえらい大きいなあ」
「ほんまに。どうして、あんな大きなテツのかたまりが、空をとぶのだろう」
「ふしぎだのお」
と、子どもたちは、ヒコウキのとぶのが、ふしぎでたまりませんでした。
戦争もはげしくなり、稲沢にもバクダンがおとされるようになりました。
そんなある日のこと。きゅうに、太郎のおとうちゃんら村人は、道づくりをはじめました。
太郎たちは、おとうちゃんに、どうして道をつくるのか、たずねました。でも、だれも教えてくれません。太郎たちは、つまらなくなって、神社のあそびばへ行くことにしました。
しばらくすると、おとなたちは、休みをとりに神社へやって来て、うわさ話をはじめた。
「なんでも、ゼロ戦が村に来るそうだなも」「ヒコウ場に木でつくったのをおいて、ひっこすそうだ」
あとでわかったことですが、大きな町では、毎日バクダンがおとされ、人々は、にげまどうだけだったそうです。
いよいよ、ゼロ戦が村にやってくる日。太郎は、ほとんどねれませんでした。ちょうど、えんそくの日みたいな気もちです。太郎は、朝ごはんを食べると、すぐ外へとび出した。神社へ行くと、ほかの子どもたちも、新しい道を見つめていた。
トラックにひかれて、兵隊さんにまもられて、ゼロ戦はやってきました。そして、五人の兵隊さんが、ゼロ戦をまもるため、村にのこりました。
太郎たちが、毎日のぞきに行ったけっか、ヒゲの兵隊さんが、パイロットとわかりました。少年たちの間で、“ヒゲおじさん”とパイロットはよばれました。
ゼロ戦が来てから太郎は、朝おきるのをゼロ戦のエンジンの音を聞いてからと、きめていました。
“ヒゲおじさん”は、子どもたちの人気ものでした。そして、ヒゲおじさんは、子どもたちに、空をとぶ楽しいお話をしてくれました。
戦争はおわった。
“ヒゲおじさん”は、子どもたちに見おくられながら、村を出て行きました。太郎は、ヒゲのおじさんにわかれをつげ、神社へとやって来ました。
「戦争のばかやろォ!おとなたちのばかやろォ!」
太郎は、なみだをこらえきれません。
「戦争なんか、戦争なんか、にどとやるものかあ!」
よっぽど“ヒゲのおじさん”とわかれるのが、太郎にはつらかったのでしょう。太郎の心の中に、にがい思い出となって、いまでものこっているという話です。