稲沢のむかしばなし キヌ糸長者(稲沢市稲沢町)
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むかしは、いまの稲沢町のあたりを、稲葉とよんでいた。ここは、旅人のとまるヤドのある、宿場町として、ゆうめいだったのです。
このころ、お金もちの郡司が、稲葉の町なみの中ほどに、大きなクラをたくさんもって住んでいた。
郡司は、この町いちばんのお金もちだと、いばりちらし、なまけてばかりいました。こんな郡司ですから、おおぜいいた使用人も、みんなやめてしまい、とうとうおかみさんと犬のシロの三人(?)になってしまった。
おかみさんのツヤさんは、子どもができなかったさびしさから、犬のシロをとてもかわいがりました。ところが郡司は、このシロがきてから、びんぼうになったと、シロをいじめてばかりいました。
郡司は、家のお金をもって出ていっては、おさけをのんであそんでくるので、家の金は、みるみるへってしまった。
ツヤさんは、りこうなシロに、ある日こういった。
「シロや、わたしが畑へクワつみに行ってくる間、るす番しておくれ」
それから、毎日ツヤさんは畑へ出かけた。
ある日のこと。
ツヤさんが、畑から帰ってくると、大切な“カイコ”が、一ピキもいません。
「・・・どうしてしまったのかしら・・・シロシロやーどこへ行ってしまったの。」
シロは、カイコだなの下から出てきました。口のはしに、クワのハッパをつけています。そして、まだ口をもぐもぐさせています。
「まあ!・・・シロ、これはおまえがやったのかい。わたしたちの大切なカイコを・・・こんなにしてまって」
ツヤさんは、なき出しそうな声で、シロをしかりつけました。コシがぬけて、立てません―。
とつぜんシロは、口からまっ白なキヌ糸を、大きなクモのように、はき出しました。あとから、あとから、白いキヌ糸が出てきます。しばらくすると、糸を出しつかれたのか、シロは、バタリとたおれてしまいました。
「シロ! おまえっていう犬は、おまえっていう犬は・・・ありがとう、ありがとう」
郡司は、帰ってから、このわけを聞いた。シロをだきながら郡司は、いった。
「シロや、おまえは、自分のいのちまでちぢめて、わしらにつくしてくれたんだなあ。ああ・・・わしは、いままで何をしていたんだ。ごめんよ! シロ」
シロは、その郡司のなみだをなめると、たちまち元気になりました。そして、ふたりのまわりを“ワン・ワン”かけまわりました。
この後、シロのはき出したキヌ糸でおった布は、都でもひょうばんになり、多くの人が買いに来たそうです。
めでたし、めでたし。