稲沢のむかしばなし かさとり(稲沢市野崎町)
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野崎町というのは、千代田小学校から、西へ500mほど行ったところにある、小さな町です。この野崎という地名は沼の中に、半島のようにつき出たところから、この名がついたという。ですから、ここのことを、沼崎とよぶ人もいるとか。
むかし、このあたりは、目比沼につづいていた。田んぼも、そのため沼につづく、沼田となっていた。村人は、田植えのはじまる6月ごろになると、竹を切り出します。竹やぶの中から、太くて、じょうぶな青竹を何本も切り出します。
きょうも朝から、六兵衛さんは、切り出した青竹を、人の背(せ:しんちょう)の2ばいぐらいの長さに切りました。
「よし!これくらいあれば、だいじょうぶ。さあ、沼に出かけようか」
六兵衛さんは、船に青竹をつみこむと、さっそくこぎだしました。このあたりの沼は、人をのみこむくらいふかいのです。
青竹は、沼のあちこちで立ちならんでいます。六兵衛さんも、自分の沼田に、きちんと立てていきます。何十本も立てると、沼の中に、竹の森ができたかと思うくらいです。
そこへ、となりの田之助さんがやってきました。
「おおい、六兵衛どん、えろうぎょうさん(たくさん)竹を立てたのお」
「田之助どん、おわりか」
「ああ、これから帰って、苗とりじゃ」
「おらも、日がくれるまでに、ここのじゅんびを、おわりたいのお」
「がんばっらっしゃい、六兵衛どん」
六兵衛さんは、立てた竹を、ほかの竹で、よこにつなぎはじめた。じつは、この竹の上で、田植えをするのです。そのじゅんびを、いっしょうけんめいしているのです。
数日後、村中で、田植えがはじまった。
六兵衛さんも、”みのがさ”をつけ、かた手に苗をもち、竹の上にのって、じょうずに苗をうえます。
そのうちに、大きな音が────。
”ドボーン!”
あっちこっちで聞こえます。
”ドボーン!────ドボーン!”
顔をそちらにむけると、田之助どんも、おちています。顔をドロだらけにしながら、竹につかまって、ひっしにのぼっています。
なにしろ、丸い竹です。つい足をふみはずせば、そのまま下の沼まで、おちてしまいます。あわてて竹につかまるものですから、つい頭につけた”みのがさ”が沼の上に、ういたまま。
「ことしも、ようかさがういとる。ほんとに、この田んぼは、”かさとり沼”じゃ」
と、六兵衛さんは思いました。
いつしか人々は、この沼のことを”かさとりぬま”とよぶようになった、とさ。